土木業界の人手不足、なぜ深刻?現場で起きていることと今後の打ち手

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「土木業界の人手不足が深刻」というニュースは、近年頻繁に見かけるようになりました。けれど、その深刻さがどれほど現場に影響しているのか、日常生活の中で実感する機会はなかなかありません。


道路や橋、水道、河川といったインフラを支える土木工事は、目に見えにくい場所で行われているため、工事が遅れても私たちの生活にすぐ影響が出るわけではありません。しかし実際の現場では、人が集まらず工事が予定通りに進まず、納期の調整や夜間作業の増加に頭を悩ませている企業が増えています。


とくに地方では、高齢化と若年層の流出が重なり、「そもそも担い手がいない」という状況すら生まれています。このまま人手不足が進めば、災害復旧や生活インフラの維持に支障をきたすことも現実味を帯びてきます。数字や報道だけでは見えてこない現場の“今”を、ここから詳しく見ていきましょう。




背景にある3つの原因:高齢化・離職・担い手不足

土木業界の人手不足には、いくつかの根本的な構造的課題があります。まず第一に挙げられるのが「高齢化」です。国土交通省の統計によれば、建設業就業者のうち55歳以上は約35%に達し、29歳以下はわずか約11%という割合にとどまっています。つまり、多くの現場ではベテランが主力を担っている状態であり、10年後には大量の退職者が出る可能性が高いのです。


次に深刻なのが「離職率の高さ」です。若手が入っても、現場の厳しさや人間関係、将来の見通しが立たないことなどを理由に数年で辞めてしまうケースが少なくありません。こうした傾向は、慢性的な人手不足の循環をさらに悪化させています。


そして第三の要因が「新規参入の減少」です。工業高校や専門学校の土木系学科への進学者数は年々減少しており、そもそも業界に興味を持つ若者の数が限られているのが現状です。加えて、土木業界に対して「きつい」「汚い」「危険」というネガティブなイメージが残っており、職業選択の時点で候補から外されてしまうことも大きな障壁となっています。


この3つの課題が絡み合い、人手不足は一時的な問題ではなく、業界全体の構造的な危機として進行しているのです。




このままでは回らない?工期遅延・コスト増のリスク

人手不足が進行すると、現場ではさまざまな影響が出始めます。まず最も表面化しやすいのが「工期の遅延」です。必要な人数が揃わないことで作業が予定通りに進まず、結果として竣工が数週間、場合によっては数か月ずれ込むこともあります。発注元や元請との調整に追われる中小企業では、納期を守るために休日返上や長時間労働が常態化し、それがさらに離職を招くという悪循環を生んでいます。


また、作業員の不足により外注や応援を依頼する機会が増え、それに伴って「人件費」や「諸経費」が膨らむことも課題です。利益率の低い公共工事では、こうした追加コストが企業の経営を圧迫し、場合によっては赤字に転落することすらあります。これにより、元請と下請の力関係にもひずみが生まれ、業界全体の持続性が問われるようになっています。


さらに忘れてはならないのが「安全性」の問題です。作業人数が足りない現場では、一人当たりの負荷が増し、確認不足やミスのリスクも高まります。このような状況が続けば、現場事故の増加や信頼低下を招き、社会全体にとっても無視できない課題となるでしょう。


人手不足は単なる“求人難”ではなく、業界の生産性・安全性・信頼性を根底から揺るがす問題となっているのです。




求人増でも人が集まらない理由とそのギャップ

土木業界の人手不足を受けて、多くの企業が求人活動を強化しています。しかし、求人を出してもなかなか応募が来ない、面接まで至らない、入社しても続かない──こうした「応募と定着のギャップ」は、企業側の努力だけでは解消しきれていないのが現実です。


なぜこのような状況が起きるのでしょうか。ひとつは「業界イメージの壁」です。求人票に「未経験歓迎」「資格取得支援あり」と書いてあっても、「現場はきつい」「怒鳴られる」「危ない」という古い印象が根強く残っている限り、応募にはつながりにくいのです。これは情報の不足というよりも、情報の“信頼性”に課題があると言えるでしょう。


また、求人情報と実際の現場との“差”も離職の原因になります。面接時の説明では「優しい先輩が多い」と言われたのに、配属先では指導が不十分だったり、長時間労働が常態化していたりすると、「話が違う」と感じてしまいます。このギャップは信頼を大きく損ね、離職を早める一因になります。


もう一つの要因が、若者側の「仕事観」の変化です。収入や安定性よりも「人間関係の良さ」や「自分らしさを発揮できるか」といった感覚を重視する人が増えており、従来型の「頑張って覚える」という職人気質が通用しにくくなっているのです。


こうしたズレを埋めるためには、企業が一方的に情報を発信するのではなく、「実際の働く環境」を見せ、双方向で理解を深めていく仕組みが必要です。その努力を続けている企業もあります。

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変化の兆し:ICT導入や働き方改革の最新事例

人手不足のなかで、現場を回していくための新たな手段として注目されているのが「ICTの導入」と「働き方改革」です。従来、土木の現場といえば紙の図面、口頭での指示、現場にいないとできない管理といったアナログな作業が中心でしたが、今ではそれが少しずつ変わり始めています。


たとえば、ドローンを使った測量や、3Dスキャナによる構造物の確認、タブレット端末での工程管理など、作業効率や精度を向上させるツールが続々と導入されています。これにより、必要な人数を抑えつつも、高い品質で現場を運営することが可能になりつつあるのです。特にICT活用は、デジタルネイティブ世代の若手にとって親和性が高く、「かっこいい仕事」「時代に合った仕事」としての印象を与えやすくなっています。


また、働き方の面でも変化が起きています。たとえば、週休2日制の導入を目指した工程計画、労務管理のデジタル化、メンタルヘルス支援など、かつては“職人任せ”だった部分を組織的に整えていく動きが広がってきました。現場単位での裁量が大きかった業界だからこそ、こうした全社的な取り組みは「安心して働ける環境づくり」の象徴とも言えます。


まだすべての企業に浸透しているわけではありませんが、確実に「変わろうとしている会社」が増えているのは事実です。そうした企業は、若手の声に耳を傾け、働きやすさと業務効率の両立を本気で目指しています。




若者や異業種からの転職がカギ?求められる新しい人材像

土木業界の人手不足に対し、いま求められているのは「これまでとは違う担い手」をどう増やしていくか、という視点です。体力や経験だけではなく、チームでの協力、ITリテラシー、柔軟な発想力といった“新しい力”が、これからの現場では強く求められていきます。


若者世代にとっても、土木業界は「ただの肉体労働」ではなくなりつつあります。ICT施工や遠隔管理など、新しい技術が次々と現場に入るなかで、パソコン操作が得意、図面の見方が早い、コミュニケーションが柔らかい──そうしたスキルが大きな価値を持つようになってきました。


また、異業種からの転職者にもチャンスが広がっています。元営業職や販売職から「安定した仕事を求めて」現場に飛び込む人も増えており、その多くがコミュニケーション力や管理力を評価されて、現場リーダーや施工管理職として活躍しています。


必要なのは、「現場経験がないから無理」と決めつけず、「どんな力が求められているか」に目を向けること。そして企業側も、「一から教える体制」を持つことが、これからの時代に選ばれる条件になります。

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