土木業界に迫る「2025年問題」とは?担い手不足がもたらす未来と対策

「2025年問題」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、社会保障費や介護人材の不足など、さまざまな分野に影響を及ぼすとされる社会課題です。土木業界にとってもこれは他人事ではなく、今まさに“人材の崖”に直面しつつあります。


とくに深刻なのが、業界を支えてきた50〜60代の熟練技術者の大量退職です。国土交通省のデータによれば、建設業全体の就業者の約3割が60歳以上。この世代が2025年を境に一気に現場から離れることになれば、技術継承はおろか、工事そのものが進まなくなるという可能性すら出てきます。


では、そのとき私たちの生活にどんな影響があるのか──道路や橋、水道などのインフラ整備、災害時の復旧、地域の暮らしを支えるすべての土台が揺らぐことになります。いま土木業界が直面している「2025年問題」とは何か、その全体像と本質に迫っていきます。




ベテラン引退と若手不足──深刻な技能継承問題

土木の現場では、ベテランの経験と判断力が、施工品質と安全性を支えてきました。しかし、その頼れる存在たちが2025年前後に一斉に現場を離れるとなれば、現場力の低下は避けられません。問題なのは、それを補える若手人材が十分に育っていないことです。


若手が業界に定着しにくい原因は、これまでの記事でも触れた通り、労働環境やキャリアの不透明さ、業界イメージのギャップなどが挙げられます。その結果、技能者の数は年々減少傾向にあり、経験を引き継ぐ「橋渡しの世代」がいないという状態に陥りつつあります。


技能継承は、一朝一夕には進みません。ベテランの技術は言葉だけでは伝えられず、共に現場を経験しながら培っていくものです。しかし現在、そうした「一緒に学ぶ時間」を確保する余裕もなく、退職のタイミングだけが迫っている状況です。


さらに、デジタル化が進む一方で「現場の肌感覚」を理解できる人材の減少も懸念されています。図面や数値だけでは補えない判断力は、まさに現場で鍛えられるものであり、それが失われれば、施工ミスや品質低下といったリスクが現実のものになってしまいます。


つまり、2025年問題とは「人がいなくなる」だけでなく、「技術が継承されない」という二重の意味で深刻なのです。




建設需要はあるのに「人がいない」現場の矛盾

土木業界の皮肉な現実として、「仕事はあるのに人がいない」という矛盾があります。国や自治体が推し進めるインフラ整備、老朽化施設の改修、災害復旧対応など、需要はむしろ増え続けています。にもかかわらず、それを担う人材が足りないという状況は、業界の持続性を根本から問う問題に直結します。


公共工事では特に「年度内完成」が求められるため、工期厳守が原則です。しかし現場では、人数が足りず工程が組めない、応援要員を確保する予算がないといった課題が山積し、現場担当者の負担が増すばかり。これがさらなる離職を招き、次の世代が育たない悪循環につながっています。


また、技術者の登録制度や配置要件が厳格化されている影響で、「人はいても資格がないから工事が請けられない」という事例も増えています。特に中小企業では、資格保有者の引退により元請としての立場を維持できなくなるケースもあり、経営そのものに関わるリスクとなっています。


需要があるのに仕事が進まない。これは単なる現場の努力不足ではなく、「業界全体の構造と仕組みが、いまの人材構成に対応できていない」ことの証明でもあります。2025年を目前に控え、現場は大きな転換点に立たされているのです。




企業の対応策:多能工化・DX・女性採用の進展

2025年問題に対処するため、多くの企業が“限られた人材でどう現場を回すか”という課題に直面しています。その中で注目されているのが、「多能工化」と「DX(デジタル化)」、そして「多様な人材の登用」という3つの取り組みです。


まず「多能工化」とは、ひとりの作業員が複数の工程を担当できるように訓練することで、人手不足下でも工程を止めずに進めるための工夫です。たとえば、型枠工と鉄筋工を兼ねるようなスキルを身につけることで、現場の柔軟性と生産性が向上します。これは中小企業にとっても現実的な対策として広がりつつあります。


次に「DXの推進」です。ドローンやレーザースキャナを活用した測量、クラウド上での進捗管理、AIによる工程予測など、かつて手作業で行っていた業務をデジタル化することで、人的負担を減らしながら正確な施工を目指す動きが加速しています。特に若手や異業種出身者にとっては、ITスキルを活かせる土壌が広がっていることは大きな魅力です。


そしてもうひとつの変化が「女性の採用促進」です。現場作業においても、機械化や作業負担の軽減によって女性が活躍できる場面が増えてきました。実際に、女性施工管理技士や重機オペレーターとして活躍する例も増え、「男社会」のイメージから脱却しつつあります。


これらの取り組みはすぐに効果が出るものではありませんが、企業の意識と体制が確実に変わってきている証拠です。

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中小企業の生き残り戦略とは?地域密着・教育体制に注目

2025年以降の人材難を乗り越えるには、大手企業だけでなく、地域に根ざした中小企業の取り組みも不可欠です。むしろ、地域インフラの多くは中小・零細企業が担っており、彼らが維持されなければ生活そのものが立ちゆかなくなってしまいます。


そんな中小企業の生き残り戦略として注目されているのが、「地域密着型経営」と「教育への投資」です。たとえば、地域住民との信頼関係を土台に仕事を受注し、地域行事への協賛や学校との連携などを通じて若年層への業界理解を促す企業も出てきています。


また、「育てて戦力にする」ことを前提とした採用に切り替える動きも見られます。未経験でも育て上げる仕組みを整え、先輩社員が日々の業務の中で知識や技術を丁寧に伝える体制を持つことで、時間はかかっても確実に人材を根づかせることが可能です。特に、退職を前提としたベテランが「自分の技術を次世代に残したい」と前向きに指導に関わる事例は、地域の希望となっています。


こうした取り組みは、資本力や規模ではなく「本気度」と「継続力」が試される分野です。短期的な成果よりも、10年後に向けた“技術と人の蓄積”こそが、中小企業にとっての最大の競争力になるのです。




「今から始めれば間に合う」──担い手としてのキャリア展望

2025年問題は、確かに差し迫った業界課題です。しかし見方を変えれば、それは「新しい担い手にとって最大のチャンス」でもあります。ベテランの引退が加速する今、ポジションが空き、経験や資格を積んだ若手が前線に立つまでの時間が大きく短縮されています。


未経験からでも、3年、5年と着実に実力をつけていけば、若いうちから現場を任されることも十分に可能です。資格支援や育成制度が整っている企業であれば、土木施工管理技士などの国家資格にも手が届き、現場から管理職へとキャリアアップする道も開けます。


いま、土木業界は「次の担い手を育てること」に本気です。そしてその担い手に、これまで業界に縁のなかった人たちの力も求めています。年齢や性別、過去の職歴にとらわれず、「地に足をつけて働きたい」「人の役に立ちたい」と願う人にとって、この業界は大きな舞台になり得るのです。


その一歩は、自分に合う職場と出会うことから始まります。疑問や不安があれば、まずは気軽に相談してみてください。

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